東京地裁の判決で、相続税の評価基準である「路線価」が否定されたんだ。
ねこくんは知っている?
どうして話題になったの?
今回の悩み
・不動産は相続税対策に有効ではなくなったのか?
・相続税対策を売り文句に販売されているマンション、アパートはどうなるのか?
・不動産による相続税対策の有効性
相続税の路線価が否定された判決について

相続税対策のために不動産を買っていた人はびっくりする判決だね。
「路線価」で評価されるから相続税対策になっていたんだけど、その根本的なところが否定された判決だからね。
ただ、今回の判決の背景にはちょっと「特別な事情」があるんだ。
そして、国税も東京地裁もその亡くなる2、3年前に購入した不動産の評価の仕方について「路線価」を否定し、
時価を反映した鑑定評価額が妥当という認識で判決がでているんだよ。
今回は「特別な事情」があったとして、国税も東京地裁も「路線価」を否定しているんだよ。
その理由と今回の判決内容について解説していくね。
どうして不動産を買うと相続税の節税になるの?

まず、どうして不動産を買うと相続税の節税になるのかを解説するね。
簡単に言うと、相続した不動産は「路線価」により評価します。その「路線価」が時価より安いので、現金で相続するより、
不動産で相続する方が相続税は安くなり、節税になるのです。
例えば、土地であれば
相続税路線価は時価(地価公示標準地価格水準)の80%で評価されています。
そのため土地の時価が1億円、相続税評価額は路線価により8,000万円となります。
資産を現金でもっておけば1億円に対して税金がかかりますが、
不動産でもっておけば8,000万円に対して税金がかかるのです。
また、建物の相続税評価は固定資産税評価額を採用します。
通常、新築間もない建物の固定資産税評価額は、実際にかかった建築コストより安く評価されていますので
実際の建築費と評価額の差分を節税できるのです。
さらに、一棟マンションやビルなどの収益物件の場合、
現在、収益物件の利回りは非常に低く、実際の取引価格は高いので、購入金額(時価)は高額となります。
それに対して、土地の路線価や建物の固定資産税評価額は低いので、
時価と相続税評価額の乖離が非常に大きくなります。
つまり、収益物件の購入価格(時価)は高いのに対して、
相続税の評価額は低いので、相続税の節税となるのです。
※収益物件の相続税評価額は正確には次のように計算します。
収益物件の相続税評価額 = ①貸家建付地の評価額 + ②貸付用家屋の評価額
①貸家建付地評価額 = 自用地評価額 × (1 – 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
・自用地評価額は路線価評価額
・「借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合」は地域によって違いますが
20%程度が多いです。
なので、収益物件の土地評価額は、路線価の80%程度が多いです。
②貸付用家屋の評価額 = 固定資産税評価額 ×(1 – 借家権割合 × 賃貸割合)
・「借家権割合 × 賃貸割合」は地域によって違いますが
30%程度が多いです。
なので、収益物件の建物評価額は、固定資産税評価額の70%程度が多いです。
土地⇒時価より路線価が低い
建物⇒時価より固定資産税評価額が低い
収益物件⇒時価より相続税評価額が低い
なので、現金より不動産で相続する方が、相続税の節税になる
相続税の節税に不動産の購入は有効ではなくなったのか?

不動産の購入は有効ではなくなったのか?
考えていきたいと思います。
「路線価に基づく相続財産の評価は不適切」とした東京地裁判決が波紋を広げている。国税庁は路線価などを相続税の算定基準としているが、「路線価の約4倍」とする国税当局の主張を裁判所が認めたからだ。路線価は取引価格の8割のため節税策として不動産を購入する人もいる。だが相続税の基準となる路線価と、取引価格に大きな差があれば注意が必要だ。
相続税対策に不動産を買うことが有効だったのに、
路線価が否定された判決がでたため、
今後、相続税対策に不動産は有効ではなくなったのではないかという点で
注目されている判決です。
今回の経緯を整理すると
①被相続人は亡くなる約2年半~3年半前に
マンション2棟を約13.9億円で購入
②その約3年後に94歳で被相続人は亡くなられて、相続が発生
③相続人は「路線価」に基づき相続財産を約3.3億円と評価
銀行の借入れと合わせて、相続税額を0円として国税に申告
④国税当局は不動産鑑定を実施、
不動産鑑定でマンション2棟の評価額は、約12.7億円と「路線価」での評価額とかなり乖離があった。
このため、国税側は『路線価による評価は適当ではない』と判断。
相続税の申告漏れを指摘し、約3億円の追徴課税処分を行った。
⑤相続人は取り消しを求めて提訴
⑥東京地裁は相続人の主張を否決(※今回の判決)
⑦相続人は不服として控訴中
これは不動産の購入金額の約13.9億円を現金で持っておけば、相続財産の評価額は13.9億円でした。
そして、この金額に基づいて相続税が徴収されていたのです。
それが、亡くなられる約2年半~3年半前に約13.9億円の不動産を買っていたので、
相続人は相続税の納税はないとして申告していたのです。
そもそも、90歳台で亡くなりそうなたった約2年半~3年半前に約13.9億円の不動産を買って資産運用するでしょうか?
この不自然な点を国税も東京地裁も鑑みています。
国税側は「路線価」評価額と不動産鑑定の開差が大きいため、
以下の『財産評価基本通達総則6項』を適用して、
約12.7億円と評価した不動産鑑定の価格をもとに、相続税の申告漏れを指摘しました。
財産評価基本通達 第1章 総則
6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
また、東京地裁もこの不自然な点を指摘し、近い将来発生する相続で相続税を軽減する行為と認め、
「特別な事情がある場合は、路線価以外の合理的な方法で評価することが許される」として、
相続人の主張を否決しました。
このように今回のケースでは、明らかに不自然な点を指摘し、
国税側は『財産評価基本通達 総則 6項』を適用し、
東京地裁も「特別な事情がある場合」にあたるとしているのです。
もしこれが被相続人がずっと以前に約14億円の不動産を買っておけば
このような判決にならなかった可能性はあるのではないでしょうか?
つまり、注目すべきは「特別な事情」にあたるかどうかであって、
全ての相続不動産の評価方法で「路線価」が否定されたわけではないと考えられますね。
日本全土の不動産を「路線価」ではなく、鑑定などで時価評価するとなると、
多大な労力とコストと時間が必要で現実的ではないと思います。
なので、今後とも相続対策に不動産で資産をもつことは有効だけど、
「特別な事情」にあたると認められる過度な節税行為はやめるように
警告されたものと理解するのがよいのではないでしょうか?
まとめ

相続不動産について路線価が否決されたため、
不動産は相続税対策に有効ではなくなるかもしれないと話題になりましたが、
これは著しく「特別な事情」があった場合ですので、
今後とも相続税対策に不動産をもつことは有効だろうと考えられます。
しかし、今後、あからさま過度な相続税対策は国税の目も厳しくなるのでやめた方が良さそうですね。
なので、相続税対策は直前にするのではなく、数十年前から長期スパンで対策をとるべきだと考えます。
最終的には今回、相続人は控訴していますので、高等裁判所の判決、さらに上告した場合の最高裁判所の判決に注視する必要があります。



今回も記事を読んでいただきまして、ありがとうございました。